加法的関数とQ線型空間Rの基底(Cauchyの関数方程式の非線型解の存在)

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入試問題をのぞいていて興味深かったのと,少々日本語文献が見当たらなかったことから,自分用に少しまとめてみます.話題としては線型代数的な話なんですが,その要素は薄いです.

Cauchyの関数方程式

関数方程式は大学入試でもちらほら登場する話題で,関数形を特定させる過程で微分係数の定義などの理解を確かめることができるので重宝されている印象です.数学オリンピックにおいても頻出のようですが詳しくは知りません.

次の関数方程式を考えてみましょう.

Cauchy's functional equation
集合 V,W 上で加法が定義されているとする.写像 f:V \to W に対して
\forall x,y \in V \, s.t. \, f(x+y)=f(x)+f(y) \, \cdots (C)
Cauchyの関数方程式 という.上の方程式を満たす写像additive function という.

加法が定義された集合,は色々範囲を広げてみると楽しそうですが本稿では専ら線型空間,というか \mathbb Q とか \mathbb R を考えます.また,additive function(加法的関数)ですが,数論でいうところの加法的関数とは異なるので注意が必要です.線型性のうち加法についてのみcompatibleである(とでも言えばいいのでしょうか)ようなものを指しています.

簡単な観察から,線型な関数,すなわち上の加法性に加えてスカラー倍についても f(ax)=af(x) が成り立つようなものは加法的関数であることがわかります.目標としては,加法的だが線型でないような非自明な関数をみつけることです.

さて,適当な条件を加えることで (C) を解くことができます.(逆に言うと非線型解があるとすればこれから挙げるような都合の良い性質は一切持っていないということです)

f: \mathbb R \to \mathbb R が関数方程式 (C) を満たすとする.
fx=0微分可能ならば f は線型,すなわち f(x)=cx \, (c \in \mathbb R) である.
証明
f(0)=f(0)+f(0) より f(0)=0 である.
fx=0微分可能であることから \displaystyle f'(0)= \lim_{y \to 0} \frac {f(y)-f(0)}{y}=\lim _{y \to 0} \frac {f(y)}{y} が存在する.
\displaystyle \lim _{y \to 0} \frac {f(x+y)-f(x)}{y} = \lim _{y \to 0} \frac {f(y)}{y} より全ての実数 x について f'(x)=f'(0)
したがって f'(0)=c とおけば \displaystyle f(x)= \int f'(x) dx = cx+d の形であり,
f(0)=0 より f(x)=cx とわかる.
(証明終)

恐らくこれが最も簡単な場合で,関数方程式の例題として最初に触れるような難易度です.その他には以下のことを示すことができます.

f: \mathbb R \to \mathbb R(C) を満たすとする.
(1) f:連続ならば f:線型である.(Cauchy, 1821)
(2) f がどこか1点で連続ならば f:線型である.(Darboux, 1875)*1
(3) f:単調ならば f:線型である.
(4) fが任意の開区間有界ならば f:線型である.


非線型解の存在

上で掲げた (1)~(4)は全て以下の命題から従います.

f: \mathbb Q \to \mathbb Q(C) を満たすとすると, f:線型である.

同様に以下のことも成り立ちます.(証明は省略します.どちらも順番に整数の範囲→有理数の範囲,と確かめていくだけです)

f: \mathbb R \to \mathbb R(C) を満たすとすると,
全ての有理数 q と全ての実数 x に対して f(qx)=qf(x) が成り立つ.

ここからいよいよ加法的かつ線型でない関数をつくるのですが,ここまで御膳立てをすると割と想像がつく方もいるのかもしれません.\mathbb Q 線型空間 \mathbb R の基底を考えましょう.この基底が取れることは(選択公理と同値な)以下の命題から従います.

任意の線型空間には基底が存在する.

B\mathbb Q 線型空間 \mathbb R の基底とすると,任意の実数 x について \displaystyle x = \sum_{\lambda \in \Lambda} q_\lambda x_\lambda \, (q_\lambda \in \mathbb Q, \, x_\lambda \in B) と一意に表すことができます(ただし \Lambda は有限の添字集合).このように基底を設定してあげると,例えば fB への制限 f|_B を定値写像 f|_B (x)=1 で定めてあげれば,定義域を \mathbb R にまで広げることができて,上の基底に関する実数 x の表示を用いて \displaystyle f(x) = \sum_{\lambda \in \Lambda} q_\lambda と加法的な関数 f をつくることができます.この f が線型でないことは,値域が \mathbb Q なので \alpha \in \mathbb R \setminus \mathbb Q に対して一般に  f(\alpha x) \neq \alpha f(x) であることからすぐにわかります.

まとめ

ここで用いた \mathbb Q 線型空間 \mathbb R の基底のことを Hamel基底 とも言ったりするそうです.Cauchyの関数方程式の非線型解についてはこれ以外にも多くのことが知られているようなので興味のある各位は調べてみてください(投げっぱなしエンド).

参考文献

Sune K. Jakobsen, Cauchy's functional equation, 2010
著者不明, The Cauchy equation, 2002(ルトガース大学1,2年生セミナーの資料か?)
alg-d, 線型空間の基底の存在 : 選択公理 | 壱大整域, 2014

*1:CauchyとかDarbouxとかその辺りの年号は孫引きです…